大阪高等裁判所 昭和40年(ツ)85号 判決 1967年2月15日
主文
原判決を破毀する。
本件を京都地方裁判所に差戻す。
上告理由について。
土地所有者から土地不法占有者に対する所有権に基づく物的請求権を原因とする土地明渡の請求を認容した確定判決は、中間確認判決等により判決主文において土地所有権の確認を経た場合は別であるが、そうでない限り、その理由において所有権の存在を確認していても、その勝訴者に右所有権があることについて既判力を生ぜしめるものではないと解するが相当である。(最高裁判所昭和三〇年一二月一日判決、民集九巻一九〇三頁参照。)原判決にいわゆる「争点効」は、特定の場合に確定判決の既判力の客観的範囲(物的限界)を判決主文には表現されていない判決理由中の判断事項まで拡張する独自の法理論であつて、これに賛成し難い。
原判決の認定によれば、先の確定判決(京都地方裁判所昭和三七年(レ)第一三号土地明渡控訴事件)は被上告人の上告人に対する所有権に基づく物的請求権を原因とする本件土地明渡の請求を認容するものであつて、右判決では、本件土地が被上告人の所有に属する旨の確認は、先決的法律関係についての判断として判決理由中になされているに過ぎず、その判決主文には掲げられていないし、また、そのような中間判決もなかつたと云うのであるから、右確定判決の既判力は本件土地が被上告人の所有である点まで及ぶものではないこと明らかである。それ故に、原審は、本訴において、本件土地が被上告人の所有であるかどうかの争点に閲し、その実質について審理し証拠に基づいて事実を認定しこれに対する法律上の判断を示すべきであつたわけである。しかるに、原判決は、本件土地が被上告人の所有であることは、先の確定判決のいわゆる「争点効」により、当事者がこれを争うことは許されず裁判所もこれを実質について審理するを要しない既定事実であるとして、その真否について実質にわたつて審理判断することなく、右所有権の存在を確認した。これでは、原判決は法律の解釈適用を誤り審理を尽していない違法があるものと云うほかはない。しかも、原判決の認定によれば、先の確定判決はその理由中において上告人が本件土地を時効取得したかどうかの点についての判断を全然示していないと云うのであるから、それは右争点についての証拠とさえもなり得ないものというべきところ、原判決は右のような確定判決があることだけを唯一の理由とし、上告人の原審における時効取得の主張は、右確定判決の基準時前に生じた事実で前訴において主張し得たものであるとしてこれを排斥さえしている。原判決の右違法は判決主文に影響あること明らかである。論旨は理由がある。
よつて、民訴法第四〇七粂第一項を適用し主文のとおり判決する。(坂速雄 長瀬清澄 輪湖公寛)